コルビュジエのロンシャンの礼拝堂は、心が洗われる空間

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2016年に「ル・コルビュジエの建築作品 ー 近代建築運動への顕著な貢献」として7カ国に残るコルビュジエ建築が世界遺産に登録されました。その一つである、フランスのオート=ソーヌ県ロンシャンのブルーモンの丘にあるロンシャンの礼拝堂に訪れてみましょう。

ロンシャン1-外部-南面

晩年コルビュジエの傑作、ロンシャンの礼拝堂

色とりどりの光に包まれる内部空間

小高い丘の上にあるロンシャンの礼拝堂に着くと、焦る気持ちを落ち着かせながら、内部へ入ります。

すると中は大空間になっていて、南面一面には、様々な大きさに切り取られた窓を目にします。窓というより、穴のようです。窓には、赤、青、黄、緑の色とりどりの彩色ガラスがはめられ、木の葉や花のような絵や単語がデザインされているガラスも見られます。

一度ロンシャンの礼拝堂を訪れると、いつでも静かに目をつぶり、この空間体験を思い返すことができるのです。

ロンシャン2-南面窓

壁の厚みは、分厚いところでは3mになり、上にいくほど薄くなっている。このトンネルのような窓を抜けると、穏やかな別世界にでも行けそうな気分になります。

天井と壁の間にはスリットが入っていて、斜めの線のようなスリットに沿って、ゆっくりと視線が動く。この他のスリットや小窓からも祈りの空間として十分な光が取り込まれて、神秘的な内部空間を作っているのです。

中央は仕切りの無い大空間になっており、隅は壁を曲げて作った小礼拝室が3カ所あります。これは複数の祭儀やミサを同時に行えるよう、依頼者が希望したものです。

コルビュジエは、最後にロンシャンを訪れた1959年に、「使ってくれた人々に感謝する。私は報われた。」と発言したことを考えると、コルビュジエの思いが詰まっているように感じることができます。

外観は芝生に置かれた船

内部にあまりにも圧倒され、長い間そこにいたので、いったん外に出ることにしました。外から見ると写真通り、どっしりとした彫塑的な建築。晴れた青い空に、白い壁と茶色い屋根がはっきりと目に映ります。

ロンシャン6-外部-東面

ここでは細部の様々な素材に目を向けてみましょう。コンクリートの外壁はスタッコ仕上げで、近づいてみると大きめのパターンの凹凸がついています。素朴で人間味があり愛着が持てるように仕上がっているのが分かります。

屋根は、板目がついた打ち放しコンクリートで、コルビュジエは、これを「ベトン・ブリュット(生のコンクリート)」と呼んでいました。ロンシャンの礼拝堂の打ち放しコンクリートはブルータリズムの傾向が見られます。

このブルータリズムという建築様式は、1950年代から1970年代に世界各地で見られるようになりました。ブルータリズムの特徴は、素材をそのまま使ったり、パイプなどの設備をむき出しにしたりする野性的な点です。低コストでスピーディーに建物が尾完成するため、行政やコミュニティが都市計画を進めるのにも有効で、第二次世界大戦後のヨーロッパでは、戦争で破壊された街を急速にコストをかけずに再建する必要があり、このブルータリズムが多く採用されました。

ロンシャン5-外部-北面

壁には、1944年にドイツ軍から空爆を受けて破壊された旧礼拝堂の石材も入っています。屋根の構造はシェル構造で、鉄筋コンクリート技術の発展がありこの形態が実現しました。これは当時の最先端の構造技術です。この屋根は、蟹の甲羅をイメージして作られたと言われていますが、私には、天と対面した船のようにも見えました。

歴史

以前もここに礼拝堂があった

この地は歴史が古く、聖母マリアを祀り、中世の頃から巡礼地といわれ、ブルーモンの丘には以前にも旧礼拝堂があり、祭事の日には多くの巡礼者が訪れていました。しかし1944年の9月にドイツ軍から空爆を受けて礼拝堂は倒壊。

ロンシャンの住民は再建を願い、神父、歴史的建造物の管理員などを含む委員会は、礼拝堂再建計画をコルビュジエへ依頼したのです。彼らは、礼拝堂に新しい命を吹き込む能力があるのは、コルビジュエしかいないと考えたのです。そして1955年に完成しました。

他にも見どころが多い敷地内

西面には、大、中、小の鐘があります。建築家のジャン・プルーヴェが設計したものです。1944年の爆撃から残った2つの鐘と、新たに作られた小さな1つの鐘を金属の支柱で吊り下げている。目立った場所にはないのだが、鐘や洗練された支柱と周囲の生い茂った木々とが調和した様子はとても魅力的です。

ロンシャン3-鐘-西面

巡礼者の宿泊施設

ロンシャン7-外部-巡礼者の宿泊施設

敷地内には、コルビュジエが設計した巡礼者の宿泊施設があります。丘の上の礼拝堂からは、芝で緑化された屋根が見え、景観に配慮されています。周囲には小さな花が咲いていて、まるで小人が出てきそうな雰囲気です。

ロンシャン10-外部-小さな花とともに撮った礼拝堂

新たなプロジェクト

旧施設の老朽化に伴う再建設と周辺環境の整備を目的としたプロジェクトがあり、2006年〜2011年に建築家のレンゾ・ピアノがビジターセンターとクララ女子修道会の修道院を設計しました。チケット売場がある建物です。

ロンシャン9-外部-レンゾピアノのビジターセンター外部通路

敷地内に到着した時には建物が見えますが、礼拝堂へのアプローチを上り、振り返ると見えなくなります。斜面にはめ込まれたような建物で、横に礼拝堂へ向かう坂道があり、この坂道を上っていくと、建物は見えなくなるのです。

そして細長い廊下が連なったような建物の一方で土を止め、もう一方は白い格子の入ったガラス面からは、建物に沿った広めの外部通路や樹木が見えます。時にはシスターが行き来する姿も見られます。

小さな礼拝堂は壁も天井も薄いグレーのコンクリートで作られていて、正面の祭壇には天井から採光が差し込みます。丁寧に並べられた線の細い椅子やこぢんまりとした大きさの空間が慎ましい。天井の曲面や、アクセントになるオレンジ色の床には温かみを感じることができます。

ロンシャン8-内部-レンゾピアノの礼拝堂

行き方

パリからの日帰りも可能

パリからTGVでベルフォールまで行き、ローカル線に乗り換え、無人駅のロンシャンに。そこからは、まだ着かないかと何度も思うような坂道を30分程度歩きます。坂道を歩きながら、礼拝堂へ向かう気分を高めるのもオススメですが、ベルフォールからタクシーで向かうこともできます。早朝に出発すれば、パリからの日帰りも可能です。

ロンシャン4-内部-中央

ロンシャンの礼拝堂で実現した、光や素材などの考え抜かれた設計には驚かされます。晩年のコルビュジエは、「死ぬまでに、近代建築の五原則によらないものも作りたかった。」と。内部の光あふれる空間は、コルビュジエの夢が詰まっています。

概要:ロンシャンの礼拝堂

設計:ル・コルビュジエ
着工:1950年
竣工:1955年
仏語:Chapelle Notre-Dame du Haut(ノートルダム・デュ・オー礼拝堂)
住所:13 Rue de la Chapelle, 70250 Ronchamp