建築学科のWEBサイト
- 建築探訪 -

This is architectural knowledge for everyone.

コルビュジエが作った都市、マルセイユのユニテ・ダビタシオン

ル・コルビュジエの設計によって1952年に完成し、今も変わらず住民の生活が営まれていながら、世界遺産に登録されている南仏マルセイユにある巨大な集合住宅。何が私たちを引きつけるのでしょうか。今回の建築探訪は「マルセイユのユニテ・ダビタシオン」です。

ユニテ・ダビタシオン1-外観

ユニテ・ダビタシオン完成時、ル・コルビュジエ65歳。研究の集大成

近代都市への考え

コルビュジエは、近代建築の五大原則をつくり、20数年「住むための機械」の研究をしてきました。これまで住まうことを追求するために最も重要な最小単位である個人住宅を手がけてきたコルビュジエは、復興・都市計画省の大臣ラウル・ドトリーから戦後復旧計画の依頼を受け、このマルセイユのユニテ・ダビタシオンで初めて公共の仕事を受注しました。

ユニテ・ダビタシオンというのは、フランス語で「住居単位」の意味を持ち、マルセイユの他に、フランスのナント・ルゼ、ブリエ、フィルミニ、ドイツのベルリンにあります。最初に作ったマルセイユがプロトタイプになっているのです。

どのユニテ・ダビタシオンにも共通している点の一つに、南北を軸にして細長い建物が配置されていることが挙げられます。室内の長手方向は、建物の奥行きと同じなので、東と西からの光で一日中明るい空間に。マルセイユのユニテの敷地前には、ミシュレ大通りがあります。多くの場合は、大通りに対して平行に配置されることが多い中、上記の理由で、建物は斜めに配置されています。

フランスでは、ユニテ・ダビタシオンはCité Radieuse(輝く都市)と呼ばれることが多いのです。コミュニティーに必要なさまざまな施設を屋上に備え、中層階に商業スペースも持っているので、ユニテ・ダビタシオは都市と例えられています。

建物内はアート作品のよう

機能的な室内

各住戸のパターンには、家族用、単身用と複数の平面プランがあり、多くがメゾネットタイプとなっています。

縦3層分を1セットと考え、2層目の中央に玄関が2住戸分あり、一方の住戸は、そこから階段で上がり、他方は階段で下がるようになっています。

戦後の復興計画であり中低所得者に向けた住まいなので豪華なつくりではなく、独自の寸法体系であるモデュロールを用いて機能的に設計されています。

玄関の横には、キッチンとダイニングが。キッチンは、コルビュジエや弟子と協働した建築家・デザイナーのシャルロット・ペリアンが設計しました。日本のデザイン界にも影響を与えたと言われる人物です。シンク、コンロ、作業台の動線が短く使い勝手が良いプランになっています。当時は電気冷蔵庫が各家庭になく、置き場は考えられていませんでした。廊下にある大きなポストに氷が配られ、食材を冷やしていたそうです。

ダイニングの奥は、吹き抜けのあるリビングとバルコニーです。バルコニーに面したサッシは折れ戸になっていて、全開できます。外部に面する縁側のようになって心地よい空間に。バルコニーの隣との壁は分厚く、プライバシーが守られています。2012年に小規模の火事があり建物の一部が燃えてしまいました。

中央の階段で上に上がると、浴室、トイレ、納戸があります。水回りを中心に、一方に子供室2室、もう一方に夫婦室が。子供室は間口が1.8mの細長い部屋で、ベッドと机がぴったりと置けるサイズになっています。室内は、マルセイユ観光案内所で、ツアーの予約をすると見学が可能です。ユニテ・ダビタシオンは現在、分譲なので、室内を改装して住んでいる人もいます。

7階にはホテル・ル・コルビュジエという名のホテルがあります。世界遺産に泊まれるということで、ハイシーズンの予約は取りにくくなっています。値段に比べて、中心市街から遠い、やや狭いといったことはあるが、部屋の使い勝手を体感したい建築ファンにとっては一度足を運びたい場所でしょう。

アクセントカラーを各所に使った共用部

ユニテ・ダビタシオン7-玄関

内部共用部を見てみましょう。中廊下は薄暗く、各戸の前にほんのりと灯がともっていて落ち着いた雰囲気を感じます。また建物が都市に例えられるように、幅3mと広めにとられた廊下は、人と人が行き交う屋内道路だと設定されています。

ユニテ・ダビタシオン6-モデュロール実物大の図

廊下には、ル・コルビュジエが人体の寸法と黄金比から作った建造物の基準寸法の数列「モデュロール」の実物大の図が描かれている。横に並んで同じようなポーズをとってみると、身長183cmを平均身長としているので、日本人にはやや大きく感じるでしょう。

7〜8階は、パン屋、お菓子屋、不動産屋、本屋、事務所などが入っている店舗スペースとなっています。

ユニテ・ダビタシオン5-1階エントランスロビー明り取り

この写真は、1階エントランス・ロビーの明り取りです。内部のいたるところで目にする、赤、黄、青、緑などのアクセントカラーは、芸術的な雰囲気を作っています。

外部を見て回ると都市を作りたかったことが分かる

巨大な船の甲板の上にいるかのような屋上庭園

ユニテ・ダビタシオン8-屋上

建物の大きさは、幅135.5m、奥行き24.4m、高さ約56mの18階建てで、住戸数は337戸あります。コルビュジエの好きな船がイメージされた屋上には、コミュニティーを形成するのに必要な、集会室、子供の遊び場、保育園、ジム、プール、アトリエ、舞台が。屋上の周囲にはトラックがあり、ランニングができるようになっています。地上56mなので、海と山が見渡せる素晴らしい景色が広がります。

ユニテ・ダビタシオン8-屋上-海が見える風景

排気筒のデザインは、塔の彫刻のようでユニークです。

これらの屋上の施設を見れば、コルビュジエはユニテ・ダビタシオンで都市を目指したのだと納得させられます。

地上に地盤を持ち上げた

ユニテ・ダビタシオン4-外観-ピロティ

ピロティには太く丸みを帯びた柱が建っています。この中が空洞で設備配管が通っているとは誰も想像がつかないでしょう。地面から柱によって地盤を持ち上げていて、人々の通行を妨げません。敷地は4haあり、建物が上部に伸びていることで周囲を緑地化しています。

マルセイのユニテ・ダビタシオンの見学を終えると、巨大に見える集合住宅でも色、素材、細かな設計に人間味を感じることでしょう。予備知識無しで見て回っても、純粋に楽しい建築物です。南仏は見る場所が多くありますが、ユニテ・ダビタシオンはその中でも訪れたい建築ですね。

概要:マルセイユのユニテ・ダビタシオン

設計:ル・コルビュジエ
着工:1947年
竣工:1952年
仏語:Unité d’Habitation
住所:280 Boulevard Michelet, 13008 Marseille, France